澎湖の北東部にあり、かつては南寮と北寮を合わせて亀壁港地区と呼ばれていましたが、分村後、海沿いの北寮は漁業を、内陸の南寮は農業をそれぞれ発展させました。南寮は農村再生の環境改善が評価され、中華民国政府が主催する2016年度の公共工事ゴールデン・クオリティ・アワードにおいて佳作を受賞しています。
湖西郷東岸には2つの村落があり、有名な奎壁山は北寮村にあり、南側は南寮村と呼ばれています。南寮村は海に面していないために発展が難しく、かつては大幅な人口流出が見られました。また、特に目を見張る観光スポットがなく、訪れる観光客は僅かでした。そうしたことから多くの古い集落は荒廃が進みましたが、そのことでかえって南寮に伝統的な澎湖の農村の雰囲気が残りました。
現在、南寮村には赤瓦と石垣を盛った珊瑚石造りの伝統家屋が多数残されており、独立型、三合院様式、そして大家族型の建物があります。また、この地域では菜宅(注:澎湖の強い風から農作物を守るために設けた防風壁)、牛車、大型住宅古民家群をよく見かけます。中でも「許返古民家」は宗教的背景や芸術価値を備えており、澎湖県文化局によって澎湖の「歴史的建造物」に指定されています。この許返古民家は清の時代の1851~1861年に建築された「一落四櫸頭」様式(注:「大厝身」と呼ばれる母屋(落)、4室の「間仔」と呼ばれる離れ屋(櫸頭)、「亭仔」と呼ばれる母屋の軒先および「深井」と呼ばれる中庭で構成)の建築です。表門は入口部分が内側にくぼんだ「倒吞砛」様式を取り入れ、塀の素材に珊瑚石を用いた典型的な澎湖の古民家です。その後3回建て直され、現在は良好な状態で保存されています。
近年はインスタレーションで村を飾り付けられており、芸術家たちが漁業用フロートを創作素材にして描いたかわいい動物の顔が南寮地区の各所に飾られています。村に入ると、珊瑚石建築に囲まれた路地の中で突然ひときわ目を引くのが千個余りの吊り下げられたカラフルなフロートです。この場所はすでにSNSの人気チェックインスポットになっており、このカラフルなフロートの間を縫って降り注ぐ澎湖の照り付ける日差しとフロートの影が鮮やかなコントラストをなし、地面に照らし出される日の光は息を吞む美しさです。このフロートを使ったインスタレーションはすでに南寮地区の重要な特色の一つになっています。村ではゆっくりと歩き、古い建物を見学して離島の農村ののんびりとした生活リズムをかみしめることができます。
南寮村は古民家群によって観光地としての知名度が高まり始めています。この村にはこの先人が珊瑚石で建てた知恵の遺跡である古民家群だけでなく、農村の穴場スポットもあります。
近年は地域再生を推し進め、古い家屋を修復し、村を代表する歴史建築の再現に努めています。この取り組みが評価を受け、2016年には政府主催の「第16回公共工事ゴールデン・クオリティ・アワード」で表彰され、2017年度および2018年度には「グリーン・デスティネーションズTOP100選」に選出されています。石を使ってコラージュで描いた生き生きとした彩色画が施された外壁を眼にすることができます。これは南寮地区に特有の布で顔を覆った女性とその仕事風景を描いたものです。
福記の魚加工用かまども改築・修復されたポイントの一つです。1959年に戴福記が設置したものであり、炉体、煙突および塩漬け槽の3つの部分で構成されています。2012年に空間建設計画補助を受けて修築されてかまどの姿が復元され、観光客が澎湖伝統の魚の干物づくりを体験できるようになっています。
澎湖は早くから漁業が盛んであり、一時期魚の加工が非常に盛んに行われていました。夏はいわし漁の季節であり、漁で獲ったいわしをかまどで蒸煮してから天日干しにした干物を台湾本島や日本へ販売していました。かまどはもはや澎湖の人々にとっての重要な稼ぎ道具ではありませんが、今なお多くの澎湖の人々の命の記憶であり続けています。再建後のかまどは観光客に澎湖の人々の伝統文化の体験の場を提供するだけでなく、澎湖の古くからの住民たちにかつての時間を取り戻させ、もはやただの記憶の中の一コマではなく、時間の逆流のようにかつてのにぎやかな漁生活を思い出させるものでもあります。
改造計画には牛糞溜め体験ゾーンも含まれていました。2013年に中華民国農業委員会水土保持局の農村再生インキュベーションプロジェクトの補助を受け、村民が共同で牛糞溜め体験ゾーンを計画し、かつての農村生活の風景を再現しました。牛糞餅はかつての農業生活における大切な燃料でした。村民は集めた牛糞の水分を取り除いた後、こねて餅状にし、天日干しにして牛糞餅を作り、それを家庭用燃料にしていました。ゾーン内に牛糞溜めと牛糞集めに使用していた道具を設置し、観光客がかつての農村文化を理解し、牛糞餅を作るプロセスを体験できるようにしています。
南寮村にはかつての漁業だけでなく、伝統的な営農集落があります。2014年の空間建設計画において「ファーマーズマーケット」が提唱され、村民は漁業用フロートのインスタレーションと色彩を利用してマーケット会場を設営し、村民や付近の住民たちに自分たちが生産した新鮮な野菜・果物や獲った海産物を販売する場所を提供し、無毒農業やフード・カーボンフットプリントの考えを提唱しています。
【見学時間の目安】2時間